書籍発売のお知らせ：薬の現象学: 存在・認識・情動・生活をめぐる薬学との接点

　薬の効果とは何か？　薬を飲むとはどういうことか？　そんな根源的な問いを存在、認識、情動、生活という4つの視点から考察したエッセイ集、「薬の現象学: 存在・認識・情動・生活をめぐる薬学との接点」が、2月の初旬に丸善出版さんから発売される予定です。すでにAmazonでは予約の受付が開始されています。これを機会に是非、手に取っていただけましたら幸いです。

　EBMと出会い、数多くの論文を読み解く中で、これまで薬の効果に対して抱いていた価値や認識が、絶対的なものではなく関心に応じた相対的なものだったことに気づかされました。一方で、薬を飲む人にとって見れば、日常生活に小さくない影響を与える絶対的なものだったりもします。薬の効果は客観的な実在物ではなく、それは「現象」と呼べるような何かです。

　「現象」は実体のないものです。薬の効果だけでなく、「健康」と呼ばれるような概念、あるいは疾患もまた現象の一つでしょう。現象にどのような理屈をあてがい、それどう概念化していくかのか……。そのプロセスは「言葉」に依存していますが、言葉の与え方が関心相関という仕方なのだと思います。

　EBMを実践する中で僕が学んできたことは、「薬そのものについて」というよりはむしろ「薬を飲むことについて」でした。その中で関心をもった哲学は、僕に大きな視点の変更、あるいは視野の拡大をもたらしてくれました。僕にとつて哲学を学ぶとは、ある特定の関心から身を引き離し、冷静に思考するプラットフォームを作ることに他ならなかったと思います。

　本書の執筆にあたり、野家啓一先生にご監修を頂きました。僕の拙い原稿を丁寧に読んでくださり、適切なご指摘をいくつも賜ることができたことは、僕にとってかけがえのない経験となりました。この場をお借りして心より御礼を申し上げます。また、帯文を書いてくださった國分功一郎先生、ご多忙中にも関わらず本当にありがとうございました。國分先生から頂いた「医薬哲学」という言葉を胸に刻み、さらなる思索を続けていきたいと思います。